家に帰ると鍵が開いていた。
一瞬泥棒でも入ったのかと思ったけれど、すぐに玄関先で雑に脱ぎ捨てられた晴人の靴を見て安心したのも束の間。
晴人の部屋聞こえる乱暴な物音に、異変を感じた私は慌てて部屋へと向かう。
「晴人……?」
「くそっ!急がねえと……早く」
晴人には私の声が届いていないようで、無我夢中に部屋の物や服などを大きな鞄に詰めていた。
「晴人!ねえ晴人、やめて!私と話をしよう⁉︎」
「うっせえ、早く退け!」
「きゃっ!」
晴人に力一杯突き飛ばされ、壁に背中を強く打ってしまう。
その大きな音で晴人は我に返ったのか、慌てて私の方に視線を向けた。
「いった……」
「……はっ、情けねえな俺……っとに情けねえ」
私を見て、晴人は今にも泣き出しそうなほど顔を歪めていた。
その綺麗な顔には、大きな切り傷があった。
鋭利な物で傷がついたような怪我が頬に負っていたのだ。
今日ついた傷なのか、まだ血が固まって間もない状態だった。