リナリアは、サジェスに押し倒された状態だったが、怒りや恐怖より先に、この言葉が口から出た。
「サジェス、アンタ……。頭がおかしいんじゃないの？」
サジェスは「この状況で言うことがそれかよ」と舌打ちをする。
「頭がおかしいのはお前のほうだよ。女のくせに、あそびで男と付き合うんだからな……。それに、俺に押し倒されても抵抗もしねぇのな。そうやってシオン殿下も誘ったのかよ！？」
サジェスに押さえつけられた手首はビクともしない。
「抵抗しないんじゃなくて、腕力差でできないの！ 本当に痛いから離して！」
「離さないと言ったら？」
顔を近づけてきたサジェスは、挑発的な言葉とは裏腹にこれでもかというくらい顔を真っ赤にしていた。琥珀色の瞳は、熱で浮かされたように潤んでいる。
「ちょっと、サジェス！？ アンタ、本気なの！？ なにか誤解しているようだけど、男だったら誰でも良いわけじゃないからね！？ 私、シオン殿下のことがずっと前から好きだったの！」
ピタリと動きをとめたサジェスの顔に、今度は激しい怒りが浮かんだ。
「……だから？」
「だからって……」
このままでは、サジェスと唇が重なってしまう。そう考えるとリナリアの全身に悪寒が走った。
「やだやだ、離して！ 気持ち悪い！ い、嫌がらせのために普通ここまでする？ 私、アンタに何かした！？ そんなに……そんなに私のことが嫌いなの？」
どうしてここまで嫌われないといけないのか分からない。悔しくてリナリアの瞳に涙が滲むと、それを見たサジェスは弾かれたようにリナリアの両手首を離して距離をとった。
「俺、何して……？ わ、悪い、今のはっ、ついカッとなってしまって、そのっ！」
何か言い訳をしようとしていたサジェスは、襟首を後ろに強く引っ張られ派手に倒れ込んだ。
倒れたサジェスの側にはシオンが立っていて、地面に倒れてむせているサジェスを怖いくらいの無表情で見下ろしている。
「シオン？」
起き上がったリナリアがシオンに声をかけると、シオンはまるで刃物で切られたかのように痛そうな顔をした。
「ごめんね、リナリア。私が側にいなかったばっかりに」
「い、いえ」
シオンは苦しそうな表情で、リナリアの手首にそっとふれた。サジェスに力任せに押さえつけられたリナリアの両手首は赤くなってしまっている。
「痛かったよね？ 怖かったよね？」
シオンにそう聞かれて、リナリアは初めて自分の手が小刻みに震えていることに気がついた。
「……こ、怖かった……です」
そう呟きながら、守るように自分の身体を抱き締めるリナリアを見たシオンは、「どうしてこの学園は、剣の持ち込みが禁止なんだろう」と背筋が寒くなるような低い声で呟いた。
シオンの後ろでは、今日の護衛ギアムがやる気なさそうにあくびをしている。そのさらに後ろには、ケイトが顔を怒りで真っ赤にしながら震えていた。
「シオン、もしかして、みんなで私を探してくれたんですか？」
「うん。君の友達が急に君がいなくなったと探していたから、もしかしてと思って……」
シオンは射貫くようにサジェスを睨みつけた。地面に尻もちをついた状態のサジェスもシオンを睨み返している。
「シオン殿下、そいつをもてあそぶのはやめてください！ どうしてコイツなんですか！？ 殿下ならそんな女を相手にしなくても、もっと素敵な方と付き合えるでしょうが！ こんなモブ女を勘違いさせて何が楽しいんですか！？」
ハッと鼻で笑ったシオンは、見る者が凍えてしまいそうな冷たい視線をサジェスに向けた。
「私の愛する人に向かって、コイツ？ モブ女？ どうやら君は今ここで死にたいようだ」
シオンの威圧的な態度にひるんだサジェスは黙り込んだ。
「サジェス、アンタ……。頭がおかしいんじゃないの？」
サジェスは「この状況で言うことがそれかよ」と舌打ちをする。
「頭がおかしいのはお前のほうだよ。女のくせに、あそびで男と付き合うんだからな……。それに、俺に押し倒されても抵抗もしねぇのな。そうやってシオン殿下も誘ったのかよ！？」
サジェスに押さえつけられた手首はビクともしない。
「抵抗しないんじゃなくて、腕力差でできないの！ 本当に痛いから離して！」
「離さないと言ったら？」
顔を近づけてきたサジェスは、挑発的な言葉とは裏腹にこれでもかというくらい顔を真っ赤にしていた。琥珀色の瞳は、熱で浮かされたように潤んでいる。
「ちょっと、サジェス！？ アンタ、本気なの！？ なにか誤解しているようだけど、男だったら誰でも良いわけじゃないからね！？ 私、シオン殿下のことがずっと前から好きだったの！」
ピタリと動きをとめたサジェスの顔に、今度は激しい怒りが浮かんだ。
「……だから？」
「だからって……」
このままでは、サジェスと唇が重なってしまう。そう考えるとリナリアの全身に悪寒が走った。
「やだやだ、離して！ 気持ち悪い！ い、嫌がらせのために普通ここまでする？ 私、アンタに何かした！？ そんなに……そんなに私のことが嫌いなの？」
どうしてここまで嫌われないといけないのか分からない。悔しくてリナリアの瞳に涙が滲むと、それを見たサジェスは弾かれたようにリナリアの両手首を離して距離をとった。
「俺、何して……？ わ、悪い、今のはっ、ついカッとなってしまって、そのっ！」
何か言い訳をしようとしていたサジェスは、襟首を後ろに強く引っ張られ派手に倒れ込んだ。
倒れたサジェスの側にはシオンが立っていて、地面に倒れてむせているサジェスを怖いくらいの無表情で見下ろしている。
「シオン？」
起き上がったリナリアがシオンに声をかけると、シオンはまるで刃物で切られたかのように痛そうな顔をした。
「ごめんね、リナリア。私が側にいなかったばっかりに」
「い、いえ」
シオンは苦しそうな表情で、リナリアの手首にそっとふれた。サジェスに力任せに押さえつけられたリナリアの両手首は赤くなってしまっている。
「痛かったよね？ 怖かったよね？」
シオンにそう聞かれて、リナリアは初めて自分の手が小刻みに震えていることに気がついた。
「……こ、怖かった……です」
そう呟きながら、守るように自分の身体を抱き締めるリナリアを見たシオンは、「どうしてこの学園は、剣の持ち込みが禁止なんだろう」と背筋が寒くなるような低い声で呟いた。
シオンの後ろでは、今日の護衛ギアムがやる気なさそうにあくびをしている。そのさらに後ろには、ケイトが顔を怒りで真っ赤にしながら震えていた。
「シオン、もしかして、みんなで私を探してくれたんですか？」
「うん。君の友達が急に君がいなくなったと探していたから、もしかしてと思って……」
シオンは射貫くようにサジェスを睨みつけた。地面に尻もちをついた状態のサジェスもシオンを睨み返している。
「シオン殿下、そいつをもてあそぶのはやめてください！ どうしてコイツなんですか！？ 殿下ならそんな女を相手にしなくても、もっと素敵な方と付き合えるでしょうが！ こんなモブ女を勘違いさせて何が楽しいんですか！？」
ハッと鼻で笑ったシオンは、見る者が凍えてしまいそうな冷たい視線をサジェスに向けた。
「私の愛する人に向かって、コイツ？ モブ女？ どうやら君は今ここで死にたいようだ」
シオンの威圧的な態度にひるんだサジェスは黙り込んだ。
