リナリアは、真っすぐにシオンを見つめた。

「シオン殿下、私は殿下の悪評を無くしたいのです」

 シオンに「悪評って?」と聞かれると、リナリアは言葉を濁した。

「それは……殿下のお耳に入れるようなものでは……」
「リナリアは優しいね」

 クスッと笑ったシオンは「第二王子のシオンは、性格が悪いとか乱暴者とかかな?」と言ったあとに寂しそうな目をする。

「ご存じだったのですね」
「まぁね。リナリアはこのことについてどう思う?」

「もちろん、信じていません!」

 勢いでシオンにグッと近づいて力説すると、シオンはフワッと嬉しそうに微笑んだ。シオンの神々しい笑顔を直視してしまったリナリアは、一瞬意識を失いかけたが、なんとか足に力を入れて踏みとどまる。

 シオンは「他には、私は『恋多き男』とも呼ばれているとか?」と探るようにこちらを見つめた。

「あ……それは」

 リナリアが口ごもると、シオンはカッと瞳を見開く。

「それはって、もしかして、このウワサは信じているの?」

 シオンは、とても驚いた顔をしている。

「あ、はい……シオン殿下ほどの素敵な方なら、世の女性はほっておかないと思いますし……」
「だから、私がリナリア以外の女性と仲良くしていると?」

 リナリアが小さくコクンと頷くと、シオンはニッコリと微笑んだ。その笑みは、先ほどとは違いなぜか背中がゾクッとする。

 それは昨日、馬車の中で見たシオンの笑顔と同じだった。

(あの笑顔は、私の見間違いじゃなかったのね)

 優しいシオンがこういう笑い方をするのは意外だったが、そんなことではシオンへの憧れはなくならない。

(こういうちょっと凄みのある殿下も素敵……)

 今まで知らなかったシオンの一面を知れて、リナリアが密かに喜んでいるとシオンに話しかけられた。

「ねぇ、リナリア。私と勝負しない?」
「勝負、ですか?」

 突然の誘いにリナリアが戸惑っていると、シオンは制服の内ポケットから手のひらサイズの小箱を取りだした。

「これは今、流行っているカードゲームだよ。リナリアは、やったことある?」
「いいえ」

「元は戦の戦略を学ぶために作られたものだったんだけどね。今ではいろんな遊び方ができるんだ」

 小箱からカード束を取りだしたシオンは、長い指を動かし器用にカードをきるように混ぜている。

「カードは全部で48枚あってね。王、騎馬、歩兵や弓兵なんかのカードがあるんだ。これを使って勝負をしようよ。負けたほうは、相手の言うことをなんでも一つだけ聞かなければいけない。そういう罰ゲームをつけよう」

 リナリアは少し考えたあとに、「例えば、私がシオン殿下の悪評を消したいので協力してください、とお願いしたら聞いてくださるということですか?」と尋ねると、シオンは「うん、そうだよ。罰ゲームは絶対だからね」と微笑む。

「もし、私が負けたら?」

 笑みを浮かべたシオンはその質問に答えてくれなかったが、リナリアはゲームを受けることにした。

(罰ゲームといっても、最低男サジェスが考えた罰ゲームよりひどい罰ゲームなんてないわ)

 しかも、あの優しいシオンが考える罰ゲームだ。リナリアができないことは言わないと分かっている。

「殿下。その勝負、受けて立ちます」