あたしは、放心状態で夜風がスマホをいじっているのを見ていた。



「夜風…何してんの?」




あのあとひたすら泣いたあたしは、泣き疲れてもう涙も出なかった。




「ん。これ、ダイスケのスマホ。遺書書いてんの。」




夜風はスマホを振る。




「遺書があった方が、自殺と認定されやすいからね。面倒臭いことになりづらいんだよ。」

「……あぁ……」




そうか、あたしたちは4人を殺した。

だけど、世間では自殺とみなされるんだ。

なんか、複雑な気分だな…


遺書を書き終わったらしい夜風が崖の底に向かってスマホを投げる。

え…?

いいのかな!?



「え!?スマホ壊れちゃうよ!?」




夜風はニヤリと笑う。




「いいんだよ。SNSに遺書投稿したんだもん。推定死亡時刻とのラグもあんまりないし、大丈夫だよ。」




すごく、手慣れているようだった。



「ねえ、夜風ってこういうの初めてじゃないの?」



あたしは不思議に思って聞いた。

夜風は真顔になった。

そして、どんどん表情が暗くなっていく。



「愛香は、知らなくていいんだ。」



低い声で囁くように、しかし力強く言われた。

それは、哀しそうな声だった。

夜風は、意識がどこか遠くにあるようなあの顔をしていた。


あたしは、よく分かった。

夜風には、夜風の過去がある。

その神聖な場所に、部外者のあたしが土足で踏み込んではいけない。

あたしは、静かにただ黙っていた。