一橋は紗南が無事でホッとすると、感情を剥き出しにした。



「左右も確認しないで道路に飛び出しちゃダメじゃないか。さっき、自分の口で小学生に注意したばかりだったのに…」



紗南の身体を離して両手を肩の上に置き、心配した眼差しでそう伝えると、紗南は少しずつ現況が飲み込めるように。



「私……、今バイクに轢かれそうだったんですか」

「あぁ、本当に危なかったよ」



一橋の和らいだ表情が目に焼き付くと、紗南は先ほどの出来事がフラッシュバックして恐怖に襲われた。



「ごめんなさい……」

「無事で本当によかった」



一橋は軽く屈み、瞳に涙を滲ませ声が震えている紗南の肩を軽くポンポンと叩いた。






ところが、咄嗟な救出劇により紗南の命が救われたのは不幸中の幸いだったが……。

その日は特に運とタイミングが悪かった。






ーーそう。

芸能科の生徒のみが出入りする西門付近で、一橋が紗南を力強く抱きしめていた、ちょうどその頃。


セイは乗車しているタクシーの車内から、偶然2人の姿を目撃。
バイクから2台後ろに走行していたタクシーは、紗南がバイクに轢かれそうになった事実を知らない。