ところが、道路の中央に侵入した途端、青信号を左折してきたばかりの赤いバイクが、紗南の方へと一直線に走り迫ってきた。



バイクはスピードを上げる。
まるで紗南の姿が視界に捉えていないかのように。
紗南自身もカバンを拾う事に気を取られてバイクの存在に気付かない。



バイクとの距離、

8メートル……

7メートル…

6メートル…



バイクからはとうに紗南の姿は見えているが、爆音を立てたままスピードを上げて距離を縮める。



5メートル…

4メートル…



ヴォン ヴォン ヴォン〜〜


うねるアクセル音は、まるで道路に飛び出した紗南にどけと言わんばかりに。



だが、時はすでに遅し。
バイクの存在に気付いた紗南の身体は硬直状態に。



「………っ!」



紗南は足がガクガク震えて、反射的にこの場から逃げ出すのは不可能だった。
そして、何も出来ないこの一瞬が常に緊迫状態に包まれている。








ーーところが。

先にバイクの存在に気付いていた一橋は、紗南がバイクに気付くよりも先に行動に移していた。



「危ないっ……」



大きく張り上げた声が絶体絶命の危機に晒されている紗南の耳に届いた瞬間⋯⋯。
一橋は身の危険も顧みずに道路の中央へと飛び出し。



バフっ⋯⋯⋯



しゃがんでいる紗南の左腕を自分の方へと引き寄せ、胸の中で抱き止めた。