「ねぇ、一橋さんと約束が入ってたのに忘れてたの?」

「あはっ…、そうだったみたい」

「あはは……。紗南ちゃんは案外忘れっぽいんだね」


「ですよね。この前なんて下校時に自分のカバンを持たないまま家に帰ろうとしたんですよ。高校生なのに信じられないですよね」

「あはは…、そりゃ参った」



腕組みしている一橋は、笑ったと同時に白い歯がキラリと光る。
2人は初対面だが、紗南の失敗ネタを親しげに談笑。



「もー!その話は誰にも言わないでって約束したじゃん」



紗南はプクッとホッペを膨らませて2人の間に割って入る。
すると、菜乃花はフッと小さく笑い、右肩にかけている紺色の学生カバンを持ち直した。



「あー、ごめんごめん。2人とも忙しそうだから私は先に帰るね。じゃあね、紗南。また明日」

「ばいばーい!また明日ね」



菜乃花は紗南達に手を振り駅方面へと歩き出した。
徐々に菜乃花の背中が小さくなっていくと、一橋は突然プッと軽くフいた。



「紗南ちゃんのお友達は人懐っこくて明るい子なんだね」

「彼女はいつもあんな調子なんです。たまに迷惑してますけど」



紗南はスネ気味に口をツンと尖らせた。