「紗南ちゃん、学校から出てくるのが随分遅かったね。結構待ったよ」



一橋は校門から出たばかりの紗南を呼び止めた。
紗南は予想外な登場に目をパチクリ。



「あれ、一橋さん。こんな所で何やってるんですか?」

「こらこら。僕との約束をもう忘れちゃったの?」


「えっ…、約束って?」

「先日、学校の傍にある書店に受験対策の問題集を一緒に買いに行こうって約束したじゃない」



目線を上向きにして記憶を辿らせた紗南。
先週の金曜日、一橋とそんな話をしていた事を思い出す。



「あっ、そうだった。約束をすっかり忘れてしまってごめんなさい」



痛恨のミスに思わず苦笑。


隣で様子を見ていた菜乃花は、初対面の一橋と目が合い軽く会釈。
一橋も菜乃花にニコリと会釈した。



菜乃花は2人の会話のヒントを元に質問を寄せる。



「ひょっとして、そちらの方が例の家庭教師?」

「あ、うん。家庭教師の一橋さん」


「初めまして。紗南ちゃんのお友達さん」

「初めまして。糸井菜乃花と申します」



ニコリと愛想良く挨拶をした菜乃花は、隣の紗南を肘で突っつく。