しかし、セイの頭の中の計算が狂い始めたその瞬間、隣からフワリと漂う風がセイの髪を揺らした。



「お願いします」



先に頭を下げたのはジュン。
シートベルトで首が締まりそうなほど、深く頭を下げている。



ジュンは本気だ。

自分と同じく負けず嫌いな一面を持ち、今日まで歌にダンスとプライド高く仕事をこなしてきた。

だから、人気絶頂期と言われている今ですら現状に納得していない。





ーーそう。

留学は1人だけの問題ではない。



2人で活動している限り、片側の都合だけを飲む訳にはいかない。
ジュンとは同じ夢を見ている者同士であり、酸いも甘いも噛み分けてきた仲。



マイケル・リーに尊敬の念を抱いてるジュン。
彼が自分達のダンス講師になってくれるなど、贅沢すぎて夢のまた夢の話。



『俺ら2人で音楽業界の頂点まで目指そうぜ』と固く誓った、今でも忘れる事の出来ないデビュー当日。


歌手としてがむしゃらに歌って踊り続けてきた3年間。
ジュンとは二人三脚で喜びも悲しみも、全て分かち合ってきた同志だ。

肩を撫で合い続けてきたお互い同士しか分かり合えない価値感が、そこに存在している。