ーー場所は、紗南の自宅。

現在、家庭教師を招いて自室で勉強している。



机に向かってペンを滑らせる紗南。

その隣で、数学の問題の解答待ちをしている、大学3年生で家庭教師のアルバイトを引き受けている一橋(いちはし)がいる。


一橋は、黒髪で軽くパーマがかかったような癖っ毛で細い黒縁のメガネ。
180センチほどの高身長。
モデルのような目鼻立ちがいい端正な顔立ちだ。



今日は一橋を家庭教師として雇い始めてから3回目。
初対面の日と比べると、お互いだいぶ打ち解けてきたところだ。




授業開始から、およそ15分ほど経過した頃。
一橋は暗く表情を落としている紗南の顔を覗き込んだ。



「紗南ちゃん。少しボーっとしてるみたけど、体調が良くないとか?…少し休む?」

「あ……、いや!全然そんな事はないです。元気です…」



紗南は昨日、『セイに近付かないで欲しいの』と冴木からキツく浴びせられた一言が、過ぎ行く時間と共に胸の中でチクチクと痛みだしていた。