ところが、ある日。
一人っ子の紗南は家業の病院を継ぐ事が決まり、声楽教室は辞める事に。



彼女の口から辞めると聞いた時は、言葉にならないほどショックだった。



歌が誰よりも好きだった紗南。
これからも隣で一緒に歌い続けていてくれると思っていたのに…⋯⋯。

レッスンがある日に会えた奇跡は、会えない悲しみと引き換えになった。



だから俺は、レッスン最終日の大雪だったあの日に再会の約束をした。



『足首が浸かるくらい大雪が降ったら、俺達はまた会おう』



今までずっと恥ずかしくて好きだという気持ちを伝えられなかった。

彼女が声楽教室を辞めたからといって、2人の関係をこれで終わりにしたくないというのが、俺の正直な気持ち。

再会の約束は、彼女を諦めきれない自分の最後の手綱に過ぎない。





それが、まさか6年経った今でもしっかり覚えてくれてたなんて…。



歌が上手に歌えなかった時に渡した星型の飴。
声楽教室の先生が作詞作曲し、2人でよく歌った思い出の曲《For you》。
それに、大雪の日に再会の約束をした思い出は、自分1人だけが胸の中に大切にしまっていたと思っていた。



だから、保健室のカーテン越しで再会していた彼女が、俺との思い出を大事にしてくれていたと知った瞬間は幸せな気持ちになった。