ーー場所は、都内の一等地にある大手出版社内の10ほどある地下一室の撮影スタジオ。


右壁に設置されたCスタジオと印字されているプレートの下には、現在撮影中の雑誌名がマジックで表記されている。



ピピピッ……

カシャッ………



撮影準備で背景を試し撮りしているカメラのシャッター音がスタジオ内に鳴り響く。
開きっぱなしの控え室の扉からは、雷の光のようなフラッシュが差し込んでくる。



雑誌の撮影待ちをしているKGKは今、スタジオに隣接されている小さな楽屋で事前に用意された衣装に着替え終えて、肘つきの回転椅子に座っていた。



スマホ操作しているセイの隣でファッション雑誌を手に持つジュンは、気だるそうな様子でセイに問いかけた。



「なぁー、セイ…」

「んー、何?」


「紗南って子に入れ込んでるみたいだけど、何処がいいの?一般人なんだろ」



降るか降らないかもわからない大雪の日の紗南との再会を目指し、仕事をセーブし始めていた秋頃。
先に仕事をセーブする理由を聞いていたジュンは、セイの恋の行方が気になっていた。



「あいつとは幼馴染だったせいか、一緒にいると落ち着くんだ。思い出を大事にしてくれていて、守ってやりたくなるくらい純粋で天使みたいで…」

「一緒にいると落ち着くって…。プッ、老夫婦かよ」



ジュンは小馬鹿にして苦笑し、持っている雑誌を鏡台に投げ捨て、後頭部に両手を組み椅子に背をもたらせ身体を大きくのけぞらせた。




本当は、紗南との思い出をジュンに全て伝えきれないほど長い長い恋路だった。