「ねぇ、紗南。久しぶりに星型の飴が食べたい」



セイは恋人だったあの頃に時計の針を巻き戻したかのように、紗南に飴をねだった。
すると、紗南は身体を起こし、カバンに手を添えた。



「うん。ちょっと待ってて。いまカバンから出すから」



昔は制服のブレザーのポケットに忍ばせていた飴。
大学生の今はカバンの中へ。
2人の思い出がたっぷり詰まっている飴は、いつでも口に含めるように毎日持ち歩いている。



紗南はカバンから飴を取り出し、2年前と同じように横になってカーテンの下から手を大きく伸ばした。



「はい、どうぞ」



隣から合図が届くと、セイもカーテンの下から手を伸ばす。

そして、手探りしているセイの手が飴を持つ紗南の手に行き届くと、ギュウっと強く握りしめた。



「ようやく捕まえた」

「えっ……」



紗南は不意打ちを食らうと思わず声が漏れた。



「どんなに長く伸ばしても、なかなか届かなかったお前の手。でも、今日ようやく届いた。……これって、奇跡だよな」

「セイくん……」


「俺、もうお前の手をもう二度と離さないから」



身体が冷えて氷のように冷たくなった紗南の手は、セイの温もりがじんわりと伝わった。


そして、橋渡しのように繋がった手の間には、幸せ絶頂期だったあの頃のように再び暖かい未来を迎えようとしている。