一橋が指先で象ったエスマークが、紗南の瞳に映し出された瞬間。




ドクン……




心臓が低い音を立てた。

それは、まるで一刻でも早く目を覚ませと言わんばかりに。



「そのマーク……」

「これって、ローマ字表記の“SEI”の頭文字のエスだよね。ファンでもない僕でも、このエスマークは印象に残ったよ。視聴者に自分の記憶を植え付けるとは流石だね」



違う。
エスマークは視聴者に自分の記憶を植え付ける為じゃない。
私達2人だけの秘密だった。

『どんな時でも紗南の事を考えている』という、私1人に宛てられた特別なメッセージ。



「これをテレビで見れなくなっちゃうのは寂しいね。歌は音楽配信やCDで聴く事は出来ても、エスマークは映像でしか見る事が出来ないから、セイのファンは今回の記者会見でエスマークが見納めになってしまったね」

「今回の記者会見でエスマークが見納めってどういう事ですか?」



紗南は驚くあまりに気迫ある表情で一橋に詰め寄った。



「記者会見を最後まで観てなかったの?」

「ううん。ちゃんと最後まで観てたつもりだけど……」


「じゃあ、記者会見の終了時に、セイがエスマークを視聴者に向けてから去って行く姿だけを観なかったって事?ホントに一瞬だったから見逃しちゃったのかな」



確かに記者会見の映像は最後まで見ていた。
ちゃんと見ていたんだけど…。

今ふと思い返してみたら、一瞬だけテレビから目を離した隙があった。