ラジオの音に包まれている車内の雰囲気は最悪そのもの。


俺は当分冴木さんを許せそうにない。
だからと言って、冷たく当たったり無視するなど幼稚な事などしない。

でも、どうしても知りたい事があったから呟くように聞いた。



「冴木さん。……紗南に何を言ったの?」



ここからは賭けだった。
質問に答えてくれるかわからないけど、冴木さんの口から答えを聞きたかった。



すると、冴木は背中を向けたまま間髪入れずに言った。



「貴方をアメリカに送る為よ。………あら、道が混んでるみたい。渋滞情報が聞こえないと困るから、少しラジオのボリュームをあげるわね」



彼女はそれ以上何も言わなかった。
当然、質問の答えではないし、期待していた返事でもない。



でも、ラジオの音楽に紛れて鼻をすする音が聞こえた。




彼女が涙を流すのは、史上最年少で成し遂げた初の全国ドームツアーの最終日以来。
普段はクールで淡々としているようだが、本当は人一倍愛情深い人。

その上、俺ら2人に人生を賭けちゃうくらい、不器用な人。



だから、俺はそれ以上彼女に問い詰めるのを辞めた。