ジュンはスラックスのポケットに両手を入れ、呆れたようにフッと笑った。



「お前さぁ、そんなに紗南が好きなんだ~」

「……ったりめぇだろ。茶化してんじゃねーよ」


「全てを丸投げしてまで彼女んトコに行っちゃうお前が正直羨ましいよ」

「何で?」


「俺にはそこまで好きになった女がいないんだ。今までお前の気持ちが理解出来なかったのは、真剣に恋愛してこなかった証拠かもな」

「ジュン……」



遠くを見つめるジュンの瞳は寂しそうだった。

ジュンとはほぼ毎日一緒にいるが、内面的な事に関しては意外と知らなかったりもする。



「でもさぁ、今のお前って何でそんなに焦ってんの?周りが全く見えなくなっちゃうくらい、紗南・紗南・紗南でさ」

「それは⋯⋯。急に別れ話をされた上に、明日から2年間留学するからに決まってるだろ。」


「なに、彼女との恋愛に自信がないの?」

「…いや、留学が決まった途端、全てが右肩下がりになっていて。それに、丸2年間あいつの傍に居てやれないから」



毎日が不安だらけだった。
特にここ最近は。

突然前倒しになった留学。
それに、同じクラスの一橋の兄が、紗南に気があるという事。


日本に残していく紗南への心配に加え、迫り来る渡米へのフィナーレは、留学日前日に告げられた別れの言葉。
しかも、それが彼女の本意ではないと知ったら⋯⋯。


俺は、まるで不安材料がミキサーにかけられてしまったかのように混乱していた。