階段の3段目に足を踏み入れたその時、背後からヌッと伸びてきた力強い手が、冴木の手首を包み込んだ。
「……あっ!」
半泣き状態で後ろに振り返ると、そこには額に青筋を立てている40代前半の男性学年主任の姿が。
後から追って来た女性教師が追いつき、学年主任の隣で息を切らす。
結局、冴木は後を追いかけてきた教師達から逃げ切る事が出来なかった。
「今すぐ東校舎に戻らないと停学処分を下すぞ。君が今している事はれっきとした規則違反だ。これ以上私の言う事を聞かなければ、どうなるかわかってるだろうな」
学年主任は半分脅迫まがいに圧力をかける。
欲しいのは手柄か。
それとも建前か。
厳しい規則を破った私を厄介者として扱う。
だけど、今回ばかりは言う事を聞けない。
「嫌です。先生の指示には従えません」
「何故だ」
「人と話がしたいんです」
「ダメだ。規則は規則だ」
「ここは、普通科の生徒が足を踏み入れていい場所じゃない」女性教師は横から初めて口を開く。
「お願いします。行かせて下さい」
「ダメだと言ったら、ダメだ」
「冴木さん!」
「⋯⋯⋯手を離して下さい」
今日まで優等生キャラで生きてきた。
真面目に授業を受けていたし、委員会や校外での取り組みも積極的にこなしていた。
反抗だって1度もした事がない。
そんな私が、正々堂々と型破りをしているのだから、教師からすると気にくわないのは当然だ。