ーーあれは、今から10年前。

青蘭高校の普通科に在籍していた私は、芸能科に在籍していた若手俳優の彼と極秘交際をしていた。

普通の恋人のように気軽に会えないから、休みの日や仕事後の深夜帯に密会していた。



あの頃は一生分の幸せを手にしたと思えるくらい、毎日が充実していて。
彼が忙しくて会えなくても、電話で毎日のように声を聞けていたからそれだけで安心できた。



ところが、ある日を境に音信不通に。
関係が良好だったにも関わらず、急に電話が繋がらなくなった。


何度かけても繋がらない電話。
きっと何らかの事情があるのだろうと、自分を宥めたりもして。


日を追う毎に不安は募る。
私は繋がらない携帯電話を握りしめたまま、彼が電話に出てくれる事だけをひたすら願っていた。




連絡が取れなくても会えなくなっても、自然消滅させるつもりなんてない。
そこには、2年7ヶ月分の積み重なった愛が存在していたから。



直接話し合わなければ何も始まらない。



私は後ろ向きな気持ちの殻を破る為に、運命のあの日に西校舎の彼の元へ会いに行く事に決めた。





普通科の生徒が西校舎に立ち入る事を固く禁じられているのは、百も承知。

でも、私は弱気な自分から卒業したいと思っていた。