私は気持ちが揺らぎそうだったから、心にブレーキをかける為に、ブレザーのポケットの中に入っている勇気の飴を握りしめた。




止まれ。
止まれ。
止まれ…。

胸の中で暴れ狂う私の感情よ、今すぐ止まれ。



いま以上に心が乱れぬように大きく深呼吸。
重く考えすぎないように、強く唇を噛み締める。



よし。
もう大丈夫。

これでセイくんから何を言われても、我慢出来る。



このまま話を聞いていないフリを続ければ、彼は私を諦めてアメリカに向かう。
そして、自分の夢を叶える為に語学にダンスに目一杯時間をつぎ込めるだろう。


私が邪魔をしなければ、最終目標としているオールマイティな歌手として更なる飛躍が出来る。




冴木さんと約束をしたからじゃない。
自分自身と約束をしたんだ。

ファンの一員として。
彼の未来を応援する事を決断したんだ。



だから、私は彼を手放す事を決めた。








でも…。
勇気の飴を強く握り締めながら、何度も心に誓っているけど……。

心のブレーキは、しっかり効いているはずだと思っているけど。



たった一度だけ瞬きをしたら、瞳に止まらせていた涙がポロッと1粒握り拳の上にこぼれ落ちた。