ーー今ならまだ間に合う。
そう思った瞬間、俺はカバンを捨てていま出たばかりの校門を潜り抜けて西校舎へと引き返していた。
これが、昼の記者会見に差し掛かる時間だったら手遅れだった。
さっきは話を鵜呑みにしていた。
それは、紗南の本音だと思い混んでいたから。
でも、もし別れたいというのが本望じゃなければ。
裏で冴木さんに感情コントロールされていたら⋯⋯⋯。
俺は、あの時の涙の奥に隠された本音を今すぐ聞きたくなった。
今すぐ聞かないと一生後悔する。
本来なら冴木が待つ駐車場へ向かう予定だが、事態は急転。
ジュンはマズイと思いセイの後を追った。
下駄箱に到着すると、セイは土足で校舎に上がり、距離を縮めたジュンも相次ぐ。
「セイ、止まれ!今から何するつもりだよ!」
声のボリュームを抑えながらもセイに問う。
「決まってんだろ。今すぐあいつんトコ行って、1から話し合うんだよ。まだあいつの本音を聞いてない。こんなうやむやした気持ちのままアメリカになんて行けねぇから」
「やめろ。彼女はお前の将来を思って決断ししたんだ。今更会いに行っても迷惑がかかるだけだろ」
と言って、ジュンはセイの腕を掴んで高くかざした。
だが、振り返った時のセイの顔は、知り合ってから5年経った今でも見た事もないほど寂しそうな表情をしている。