「もしかして…、本当は紗南と知り合いじゃないとか?」

「えっと…、あ…あぁ」



ジュンは目線を逸らし冷や汗を滲ませた。



「じゃあ、一体誰が紗南を視聴覚室に⋯」

「あれから紗南に会えたんだな。やっぱり別れ話になったの?」



セイは今朝の視聴覚室での一件を、ジュンにまだ伝えていない。
にも関わらず、別れまでの経緯を知ってたかのような口っぷりは、セイの中の何かを覆す引き金となった。



「……今、別れ話って言ったよな。俺、まだ話の内容すら口にしてないんだけど」

「あっ…、やべぇ!」



ジュンは取り返しのつかないミスをし、気まずそうに右手で顔を覆う。



「黒幕は誰だ……。一体誰に指示をされて、俺を視聴覚室に向かわせた。紗南を呼び出したのはお前じゃない事は、今はっきりした。…言えよ、素直に吐き出せよ」



セイはまるで別人のように目の色を変えると、白昼堂々ジュンの襟元を掴み上げた。

眉をひそめてキツく睨んでいる瞳の奥は、心の中を覗き込もうとしている。
ジュンは首元が徐々に締まっていくと、顔面蒼白になった。



人目に触れる場所での激しい言い争いや喧嘩は、芸能人にはご法度だ。


だが、ジュンはセイから逃れられない。
頭の傍らでは、一刻でも早く気を収めなければならないと思っている。


ジュンは、冴木に内緒にしてくれと伝えられていた。
だが、セイの全く引く気のない様子からすると、素直に吐き出した方が賢明だと判断した。



「俺が囮になってお前を視聴覚室に呼び出せと指示をしたのは………、冴木さんだ」



セイは真実を知った瞬間、フッと意識が遠のきそうになった。