紗南は冴木の顔を見た途端、ポケットに手を突っ込み【勇気の飴】を握りしめた。

意思を伝えきれなかった情けない自分の殻を破って、濁り濁った胸の内を曝け出したかった。



「冴木さんの願い通り、私達は別れました。これで充分ですよね。思惑通りになったでしょ。……でも、こんな残酷な別れ方をしなきゃいけない理由がわかりません」



紗南は冴木に怒りの矛先を向けた。
しかし、冴木は表情を変えぬまま首を横に振る。



「いいえ、 まだ充分じゃないわ」

「えっ……」


「セイが日本を発つまで油断してない。まだ、最後まで何が起こるかわからないし」

「………っ」


「ちなみに、先程の視聴覚室での様子は一部始終ビデオに撮らせてもらったから」



全身の血の気がサーッと引いた。

何故ならビデオに収められているのは、話し合いの一部始終どころか、彼が二度に渡って抱きしめてきたシーンも録画されていると思ったから。