チャイム音に包まれ、涙を拭いながら視聴覚室を出て行った紗南は、同校舎内の2階の教室へと向かった。





別れたくない。
離れたくない。
私だってセイくんが好きなのに……。


歌が上手く歌えない私に飴を渡してくれたあの時から、無理に想いを引き離さなければいけないこの瞬間まで、ずっとずっと……。




涙を流すセイの姿が幻影のように目に焼き付き、ヒクヒクと咽び泣きながら1階の廊下の左側にある階段へと曲がった。

すると、階段の2段目に足をかけたその時。



「それでいいのよ、ご苦労様」



精神的に追い込まれている紗南の背後から労いの言葉が届く。


それは、聞き覚えのある淡々とした語り方。
紗南は声の主が冴木だとすぐに確信した。



紗南は涙を飛び散らせながら冴木をキッと睨みつける。
すると、冴木は階段の角に背を持たれて腕組みをしていた。




このタイミングでの彼女の出現は、まるで萎びた花に命の追い打ちをかけるかのよう。
別れの現場を一部始終見ていたかのような口っぷりに、少し違和感を覚えた。