しかし、タイムリミットは刻一刻と迫る。
時間を共にしている間に決断を下さなければならない。



「私達、一緒になれない運命なんだよ」



紗南の頬には土砂降りのような涙。

セイの身体を両手でドンっと突き放すと、セイの頬には1本の涙のスジが描かれていた。



彼の涙を見た瞬間……。

私の心は死んだ。



もう、ゴメンでは済まされない。
偽感情を叩きつけた自分が憎くて仕方ない。




でも、これでいいんだ。

これが正解なんだ。







紗南はセイを失う恐怖で震えが止まらず、一歩一歩ゆっくり後退。

そして、手が届かない間隔まで到達すると、背中を向けて扉の方へと走り出した。




ダメだ。
ここで諦めたら俺は一生後悔する。
ただひたすら大雪の日を待ち望んでいただけの、昔の自分に戻りたくない。



諦めきれない気持ちは再び伸ばした右手に託された。


紗南の方へと。
真っ直ぐ、真っ直ぐ……。






ところが、零れ落ちた紗南の涙が、偶然にもセイの手の甲に滴った瞬間。

まるで自分達の関係はここまでと断ち切られてしまったかのように、ピクリとも足が動かなくなった。



次第に距離が広がっていき、紗南はそのまま視聴覚室から飛び出して行った。



もし、セイの足が再び動いたとしても、紗南を追いかけたその先には普通科と芸能科の境界線というものが存在しているから、事実上追いかける事は不可能だった。








視聴覚室に1人取り残されたセイは、ふらふらと足をもつれさせ、中央の後部座席に腰を下ろした。

そして、もどかしい気持ちを放出させるかのように、両拳をドンっと机に叩きつける。



「こんなに好きなのに…、どうして気持ちが伝わってくれないんだ。くっそおぉ……っ…」



キーン コーン カーン コーン


セイはぐしゃぐしゃと頭を掻きむしっていると、まるで2人の関係を遮断させるかのように、HRの開始時刻を知らせるチャイムが鳴った。