一方、セイは最後の恋愛でいいと断言出来るほど紗南を手放したくないし、別れを受け入れられない。



「別れ……たい?何で……。理由が知りたい」



まるで渦を巻き起こしている台風のように、セイの心の中は雨風が吹き荒れている。



「電話が……、繋がらなかった」

「だから、それはさっき説明…」
「連絡は私にとって凄く大事だったから」



紗南は少し強い口調で言葉を重ねた。



「私達は恋人なのに、たった1行程度の単純なSNSメッセージのやり取りすら出来ていないんだよ。その上、今度は留学で2年も会えなくなる」

「アメリカに行ったら今より時間に余裕が出来るから、その合間を縫ってこまめに連絡する」


「……こまめに連絡?セイくんは私と付き合い始めてから、ほとんど連絡なんてして来なかった」

「それは…」



ずっと間接的なコミュニケーションを避けてきたセイに、重い現実がのしかかる。



「しかも、先に報道が出てるのに、留学日前日の今日になって出国の日程が早まったと聞かされても遅すぎる。……私、セイくんの彼女じゃないの?」

「ごめん……。日程が前倒しになった事を伝えるのが遅くなって」


「酷いよ……。私、セイくんが初めての彼氏なんだよ」



身体を震わせている紗南の瞳から一粒の大きな涙がポロリ。



涙の粒に含まれていたのは、連絡を待ち続けていた1人きりの孤独で寂しい時間。

まだ恋人らしい事は何1つ出来てないのに、これから先の2年間は空白の時間が待ち受けている。




セイは頬から膝に置く拳へと流れ落ちる涙を目に映すと、紗南の苦しみにようやく気付かされた。