セイは軽く辺りを見回し、2人でいる姿を誰にも目撃されないよう警戒深く後方扉を閉じた。

机の間を通り抜けて紗南の隣に移動すると、首を傾けて紗南の顔を覗き込んだ。


2人がこんなに接近するのは、保健室のベッドで抱き合ったあの日以来のこと。






2人は隣に並んで座っていても、ブレザーの色が違う。

普通科の紗南は紺のブレザー。
そして、芸能科のセイはベージュのブレザー。

20センチほど離れている肩と肩の間は、まるで両科の境界線のよう。



「まぁ、細かい事は別にいっか。お前に会えただけでも嬉しいから」



セイは浮かれ気味に気持ちを吐き出す。
一方の紗南は、セイの表情を見ぬまま隣で小さくコクンと頷く。



すると、セイは紗南に会うまで心の中に留めていた話を、朝の短い時間内で簡潔に伝える事にした。



「あのさ…俺、いま紗南に伝えなきゃいけない話があるんだ。今日までずっと言わなきゃなって」

「……うん、なぁに?」



そう言って向けてきた彼女の瞳の中には、自分の顔が映し出されている。



「先週、一斉に報道が出たからさすがに知ってるかもしれないけど。留学日程が早まって、明日日本を発つ事になった」

「……うん。知ってる」


「出発日が半月も早まったのに、伝えるのが今になってごめん」



セイは申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
紗南は鼻頭を赤く染め唇を噛み締めながら無言で首を横に振った。