「失礼しまーす」



セイは保健室の扉の奥から顔をひょこっと覗かせる。
養護教諭はセイの入室に気付くと、普段通りの笑顔で迎えた。



「授業はこれから?もう最後の授業でしょう」

「あ、はい。ひょっとしたら後でまた寄るかもしれないけど、時間がある時にちゃんとした挨拶をしたいなと思って」


「わざわざ悪いわね」

「いえ⋯。杉田先生、今日まで沢山お世話になりました」



2年間、毎日のように通った保健室。
先生は多忙な俺の身体を労り、可能な限り休ませてくれた。

無理をさせないのが先生の方針。
足音1つすらたてず、他の生徒が入室しても
内緒話に近いくらいの小声で対応していた。



セイは感謝の言葉を伝えて深々と頭を下げると、養護教諭は寂しさのあまり瞳に涙をうっすら浮かべた。



「そっかぁ……。今日で最後なんだね。もう二度とセイが保健室に来なくなると思うと寂しいわ」

「ははっ。また2年後に遊びに来ます」


「うん、待ってる。アメリカに行っても貴方らしさを捨てずに頑張って」

「ありがとうございます。……それじゃ」



軽く一礼をしたセイが部屋を出ようとして背中を向けた瞬間、養護教諭はふと紗南の顔が思い浮かんだ。



「セイっ……」

「ん、あ…はい?」



扉の向こうへと一歩足を踏み出したセイだが、不意を突かれて思わず素っ頓狂な声を出す。

しかし、養護教諭は自分が出る幕ではないと思い口を結んだ。



「……ううん、何でもない。元気でね」



養護教諭は2人の交際を知ってるだけに、最近2人揃って保健室に姿を現していない事がとても気になっていた。



「はい……、では」



セイは頭を下げて保健室の扉を閉める。

そして、保健室の2つ隣にある視聴覚室の方へと足を進めた。