すると、ポケットに手を突っ込み身体を屈ませたジュンは、セイの耳元までググッと顔を近付けた。
「あのさ、これからお前に大事な話をしたいんだけど」
「なんだよ、いきなりかしこまっちゃって」
「いいから。ここじゃなんだから視聴覚室でゆっくり話そ」
「話ならここで今すればいいじゃん。毎日お前と一緒にいるのに、何でわざわざ視聴覚室に?俺とお前だぞ?」
「……っ、まぁいいや。俺は後から視聴覚室に向かうから、お前は先に行ってろ」
「はぁっ?!お前から話をふっかけといて、何で俺が先に?いま俺と一緒に行けばいいじゃん」
「いいから!俺は今から5分後に行くから。まずは最後の学校を思う存分堪能しなきゃいけないからな。じゃ、後で……」
ジュンは押し付けがましく伝えたい事だけを伝えて、背中を向けセイの元から去って行った。
「何だ……?あいつ。最後の学生生活を堪能するのが、そんなに大事なのかよ。変な奴」
ジュンとはもう5年の付き合いになるが、このように考えが読めない時がある。
だから、この時の俺はジュンが急に視聴覚室に呼び出してきた理由を深く考えなかった。