頬へと流れ落ちる涙を見た菜乃花は、事の深刻さを悟った。



「紗南……」

「もう、遅いかもしれない。何もかもが…」


「そんな事ない、大丈夫だよ」

「繋がり合わなかったのは電話じゃなくて、私達それぞれの心だった。約6年振りに再会した時は、既に何もかも遅かったんだよ」



紗南は感情を爆発させ、身体を小さく丸めて泣き崩れた。

我慢していた気持ちを一旦吐き出したら、雪崩が起きてしまったかのようにコントロールが効かない。






もう、限界だった。

冴木さんに一方的に責め続けられたり、明かされた重苦しい現実があまりにも耐え難くて辛かったから、全てを心の中に留めておけなかった。





紗南の衰弱している姿が目に焼き付くと、菜乃花は隣に座ってそっと肩を抱き寄せた。



「大丈夫。だって、紗南達は6年ぶりに運命的な再会をしたんだよ。大雪だって降るかどうかわからなかったのにさ。きっと2人には深い縁があったから、もう一度神様がめぐり合わせてくれたんだよ」

「……」


「……だから、遅くはない。お互い信じ合えば、きっと苦難も乗り越えられると思うよ。頑張れ、頑張れ」



菜乃花のエールが穴ぼこだらけな心に隙間を埋めていくかのように充満すると、涙は更に溢れ出た。







とてもじゃないけど、菜乃花には言えなかった。

私が彼の運命を握っているという事を…。




それに加え、セイくんと同様、アイドルとして活躍しているハルくんとの恋を夢見描いている菜乃花に、現実を見ろと言わんばかりに冴木さんから手渡された地獄行きのメモの存在を、自分の口から伝える事が出来なかった。