冴木は保健室に入室すると、パソコンで作業している養護教諭に一礼してから奥へと進み、セイがいる窓際のベッドの前に立ちカーテン越しから問いかけた。



「セイ、少しは休めた?あと40分したらここを出発するわよ」

「了解」



冴木の出現に驚いたのは紗南だけではない。
セイも同じ。
普段なら出発間際に迎えに来るパターンだが、今日に限っては出発の40分前に現れた。



セイは壁一枚挟んだ向こう側に紗南が居た事実を知らない。
だから、冴木と紗南の間で行われた話し合いなど知る由もない。



セイは冴木の出現により、紗南と会える期待を消失させた。








ーーただ、廊下から感じた人の気配だけは気になっていた。
だから、部屋に入って来たばかりの冴木に尋ねた。



「冴木さん。さっき廊下で話し声が聞こえたけど、冴木さんが誰かと喋ってたの?」



ベッドに横になるセイの耳まではっきり聞こえて来なかったけど、冴木が誰かと話していた事だけは気付いていた。



「えぇ」

「……誰?」


「貴方がよくお世話になってた方に出発前の最後の挨拶をしたのよ」

「そっか…」



カーテンに影を映すセイからの小さい返事は、カーテン越しへと届けた。

セイは冴木の言葉を信じ、挨拶した人物がお世話になった教師ではないかと勝手に憶測していた。






今日は紗南に会えなかった。
学生生活の最後の明日は会えるかな。

もし、明日紗南に会えなかったら……。



セイは紗南の連絡先が入っていない新しいスマホをぎゅっと強く握りしめた。
紗南に会える可能性が残り1日しかないと思うと、もどかしい気持ちに押し固められていく。