起きたら別館の自分の部屋で、しかも窓の外はとっくに夜で目を疑った。

(や、やっちゃった)

 良い具合にお腹も満たされ、暖かい部屋で体がぬくぬくしていたせいか、私はクリストファーの執務室で寝落ちしたらしい。

 枕元にいたぬいぐるみサルヴァドールからは「本能の赴くままかよ」と言われ、返す言葉もない。本当にその通りである。

 どうもこの体は自由が利かない。というより、自制が効かなくなるといったほうが正しいのかな。

(空腹は我慢しにくいし、眠いと思ったらいつの間にか寝てるし……)

 ジェイドとお絵描きをしていて、クリストファーの似顔絵を完成させたあと、右側が寂しいので急遽自分を描いたところまでは覚えている。

 十分間クオリティだけどクリストファーに関しては上手く描けたと思う。
 おまけ程度の私の絵はなんかよくわからないキャラクターチックになってしまったけれど。
 
(それで、最後に目の色を塗っていて……)

 記憶はここで途切れている。
 ということは、おそらく目を塗りつぶしている途中で眠ったのだろう。

「ねえ、わたしが寝たあと、お父様なにか言ってた?」
「なにかって?」
「お父様の似顔絵描いてたから。見た反応とか気になって……あと、寝ちゃって呆れられてないかなとか」

 サルヴァドールも執務室にいたのだから、私が意識を手放したあとのことも知っているはず。

 面会時間中に寝るなんてけしからん! やっぱり子どもに構うのは時間の無駄だ! とか思われてないといいけど……。

「あー。お前の絵については、なんか鼻で笑ってたような」
「鼻で!?」
「いや、普通に少し……一瞬笑ってた感じかもしれない」
「どっち」

 鼻で笑うのと普通に笑うのとでは、かなり心象が違うと思う。
 
(というか鼻でもそうじゃなくても、クリストファーが笑ってるなんて、レア中のレアじゃない?)

「お前に似てるあの雪だるまみたいな絵を見て、不思議そうにしてたぞ」
「似てるじゃなくて本人だよ」
「お前……自らその身を丸々に描いて、わざわざ卑下してるのかよ?」
「わたしのはサッと描いただけだからああなの!」

 たしかに時間がなくて二頭身で描いたものの
、雪だるまを描いたつもりはない。自画像である。

(この大悪魔、失礼すぎる)

 リデルの相棒としていたときはもっと機械的な反応だったけれど。
 やっぱりゲームとリアルでは大違いだ。

(まさかクリストファーもあれを雪だるまだと勘違いして……いやいや、灰色と白のクレヨンを使って髪も描いたし私だってわかるよね?)

「アリアお嬢様、失礼いたします」

 思いのほか反応が引っかかり、絵に関して悶々と振り返っていると、扉がゆっくり開かれた。