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 クリストファー・グランツフィル公爵。北領全域を治める若き統治者の朝は早い。

 日が昇る前に身支度を整え、自主鍛錬前に軽く書類に目を通し、予めジェイドが執務机に置いた一日のスケジュールを確認する。

 その後は専用の訓練場で剣を振るう。体が温まった頃に副団長が訪ねてくるので、そこから騎士団訓練場へと向かうのだ。

 ここまでの時間経過は、きっかり一時間。
 クリストファーの行動は寸分の狂いもなくいつも正確だった。

 それは、名目上は父親でもあった前公爵による当主教育によって「無駄」をとことん排除するように仕込まれたからである。

 その教えは決して褒められたものではなかったが、クリストファーの日々の生活に深く根づいてしまっていたのだ。



「……どうかされたのでしょうか」

 その日の始まりは、いつになく静かなものだった。
 起床から騎士団訓練場へ移動の最中までは、特に問題なくいつも通りだった。

 しかし、すぐ後ろに控え歩いていた副団長の声に、クリストファーの足が止まる。

「…………」


 いつもならば、自分を呼ぶ声があって歩みを止めていたはずの時間。
 けれど今朝は、それがなかった。