早朝の廊下は真夜中と同じくらい寒い。

(よし、誰もいない)

 私はこっそりと部屋から椅子を持ち出して、窓辺に近寄った。

「サルヴァ」
「はいよ」

 脇にぬいぐるみ姿のサルヴァを抱えた私は、視線を落としてそうお願いする。
 すると、固く鍵で閉められていた窓がふわりと開いた。

「うう、寒いっ」

 冷風がひゅうっと頬に当たって体の温度が下がっていく。
 指先が赤くなった手に、はあっと息を吹きかけて、気休め程度に温めた。

 外はまだ薄暗く、粉雪がちらほらと降っている。
 目の前に広がる庭も真っ白な景色で埋もれていて、さすがは極寒の北領地だと納得した。


(あ、来た)

 耳をすませれば、さく、さく、と庭先から雪を踏む足音が聞こえてくる。

 私は広い窓枠に体を乗せ、四つん這いになって外に向かって顔を出す。

「おはようございます、お父様ーー!」
「……」

 多くの騎士を引き連れて先頭を歩いていたクリストファーは、無表情のまま私がいる窓のほうを見上げた。

「……」

 またしても無言。そして、ため息を吐いていた。