エステルも少し落ち着いた様子で、肩をひくひくさせながらもこちらをじっと見つめている。
 僕は意を決して、自分の気持ちを少しずつ言葉に紡いでいく。

「エステル、聞いて。あの日、僕たちが離れ離れになった日のことだけど。君のことを守ってあげることができなくて、本当に申し訳なかったと思っている。ずっとあの時のことを後悔していたんだ。君を守れなかった自分の不甲斐なさに、情けない気持ちでいっぱいだよ」
「フェリクスでん、か……それは、違います。あの時はダンシェルドの兵がセイデリアを……っ! だから、殿下が情けなく思うようなことは一つもありません」

 エステルの瞳に、再びじんわりと涙が込み上がった。

「エステル、違うんだ。国と国の問題はもう解決したし、これからお互いに前向きに関係を築いていけばいいことだ。僕が言っているのは、僕と君との問題。君に不安な思いをさせてしまった上に、その後の六年間もずっと、君のために何一つできなかったことが情けなくて」

「でも、それもダンシェルドが森に呪いをかけて行き来をできないようにしたからじゃないですか。呪いのかかった森に入ることは危険ですから、フェリクス殿下が森に入ることなど、絶対に許されなかったはずです。私は全部分かっています……」

「エステル。この六年間、僕は一日たりとも君のことを忘れたことはなかった。あの日の十二歳の頃の君の姿を思い出しては、またいつか君に会いたいとずっと願っていた」

「殿下……ありがとうございます」


 もしかしてエステルは、化粧が落ちると人格が変わるのかな。
 今、僕の隣に座って涙をこらえている彼女は、紛れもなく僕の好きだったあの頃のエステルだ。


「実はもう一つ話があるんだけど……。エステルがさっきみたいに分厚い化粧をしたり強がった態度をしていたのは、なぜなのか聞いてもいいかな? 正直に言うと、ちょっと驚いてしまってね。本当は再会した時にこうして普通に話をしたかったんだけど、君の姿を見て驚きが大きすぎたというかなんというか…」

「フェリクス殿下……」

 しまった! 混乱と動揺を隠すために喋りすぎた!

「殿下、驚かせて申し訳ありません。私もきちんとお話しますね」

 エステルはもう一度涙を拭くと、僕の方をしっかりと見た。