琳伽(りんか)は二十歳になった。
 逞峻(ていしゅん)は、十四歳となったはずだ。

 この年は皇帝に四番目の皇子が誕生した祝いとして、梅見の宴が催された。
 皇帝と皇后が座る横には、久しぶりに見る逞峻(ていしゅん)の姿。
 上の二人の皇子が早世し、逞峻(ていしゅん)は皇太子となっていた。当たり前のようにいつも傍にいた逞峻(ていしゅん)は東宮へと移り、この半年は一度も顔を合わせていない。

 皇帝、皇后、そして逞峻(ていしゅん)
 その三人の左右には、美しい装いに身を包んだ四夫人に、皇帝の寵を得た妃たちが並ぶ。

 琳伽(りんか)のような下っ端の妃嬪は、余興として舞を披露することになっている。雅楽に合わせて薄絹の被帛(ひはく)を揺らめかせながら、琳伽(りんか)は舞の振りに合わせて逞峻(ていしゅん)へ視線を送った。

 この半年で随分と精悍な顔立ちに変わった。
 上敷(うわじき)をかけた長几(ながづくえ)に隠れて全身は見えないが、琳伽(りんか)を少し越す程度だった背は、きっと随分と伸びていることだろう。


『次は梅の花を(かたど)った本物の(かんざし)を贈ろう』


 昨春の逞峻(ていしゅん)の言葉に心乱され、次の春が来るのが怖いような待ち遠しいような複雑な気持ちで迎えた夏の終わり、突然訪れた二人の別れ。
 仮にも皇帝の妃という立場で、逞峻(ていしゅん)の言葉をどう受け止めれば良いのか。そんな気持ちも、今となっては杞憂に過ぎない。

 皇帝の後宮妃と、皇子。
 六つの歳の差。

 色んな障壁を口実にして、琳伽(りんか)は自分の気持ちから目を逸らしていた。
 もし自分が皇帝の後宮妃でなければ。
 もう少し歳が近ければ。

 逞峻(ていしゅん)が簪を贈ろうと言った申し出を、素直に受け止めることができたのに。


(せめて皇太子となられた言祝ぎの代わりとして……)


 琳伽(りんか)逞峻(ていしゅん)に向かって、叶わぬ想いを込めて精一杯舞った。