見物人たちは、がぜん盛り上がり始めた。思いがけず、王子にして国一番の剣豪であるステファノの試合を、観戦できることになったからだ。

 ボネッリ伯爵やステファノの家臣たちは、急いで準備に取りかかった。一人だけ専用スペースに戻るわけにもいかないので、ビアンカは一般見物席へと向かった。妹たちと一緒に観戦しようと思ったのだ。すると、ボネッリ伯爵が呼び止めてきた。

「ビアンカ嬢、お待ちください。席をご用意しましょう」

 言いながら彼は、見物席の最前列を空けてくれた。試合中に剣が飛んで来たりしたら危険なので、その列は封鎖してあったのだ。逆に言えば、一番よく見える特等席でもある。

「あのお二人の腕なら、危険はないでしょうし。ささ、どうぞ」
「特別扱いは、申し訳ないですわ」

 ビアンカは他の観客に遠慮したのだが、伯爵はサービスする気満々の様子だ。

「今回の殿下ご滞在の間、あなたには色々とご協力いただきましたからな。これくらい、当然です」

 是非にと勧められ、ビアンカは申し訳ないと思いつつも、好意に甘えることにしたのだった。

 そうこうしているうちに、二人の試合の準備は整った。いつもの騎士の制服に身を包んだアントニオと、マントを凜々しく翻したステファノが向かい合って立つ。ステファノの背後には、王立騎士団の騎士らが整列していた。王子に何かあったらすぐに対応できるよう、全員が警戒の色を浮かべている。

 開始の合図が鳴らされる。先に動いたのは、アントニオの方だった。一気に、ステファノの懐へと飛び込んで行く。攻撃する気満々なのは、明らかだった。大男と戦っていた時とは、眼差しの真剣さが違う。

 ガキン、と音がして、ステファノがアントニオの剣を受け止める。そして次の瞬間、激しい打ち合いが始まった。