(勝った……!)
会場は、一気に興奮の渦に巻き込まれた。エルマにルチアにスザンナ、四人の仲間らは、手を取り合って喜んでいる。大男の家族は、うちひしがれながらも、父親を労っていた。この専用席では、ドナーティが「野菜か……」と忌々しげに呟いている。他の王立騎士団のメンバーらは、この先どうなるのだろうという目つきで、ステファノとビアンカを見比べていた。
この後は、優勝者に賞金等の授与だ。ボネッリ伯爵は、早速牛を準備させようとしている。だがステファノは、なぜかそれを押し止めた。
「今の試合に、何か問題でもございましたか?」
ボネッリ伯爵が、不安げに尋ねる。いや、とステファノはかぶりを振ると、席を立った。専用スペースを出て、試合会場内へと降りて行く。家臣らは、一斉に付き従った。ビアンカも、後を追う。
アントニオは、すでに身繕いを終えていたが、ステファノを見てひざまずいた。ステファノが、穏やかに語りかける。
「見事な戦いぶりであった。素晴らしい剣技を見せてもらったことに、礼を言う」
「もったいないお言葉です。運が味方しただけにございます」
アントニオが、そつなく答える。国王同様、ステファノにも反感を抱いていた彼だったが、ひとまずは敬意を払った態度であることに、ビアンカはほっとした。
「謙遜せずともよい。そなたの試合はずっと注視してきたが、並のスキルではない」
力強く言い切った後、ステファノはアントニオをじっと見つめた。
「アントニオ・ディ・パッソーニ殿。そなたのその能力を、是非我が王立騎士団にて発揮していただきたいと思うのだが、いかがか」
ビアンカは、息を呑んだ。
(引き抜くという噂は、本当だったのね……)
それも、この場で即決するとは。期待に胸を躍らせたビアンカだったが、アントニオは即座に答えた。
「大変、ありがたいお言葉なれど……。私には、そのような名誉にあずかる資格はございません。それに、生まれ育ったこの土地を守ることが、私の使命と考えております」
「アントニオ! そのような……」
側で聞いていたボネッリ伯爵は、血相を変えた。一見言葉は丁寧だが、アントニオは王立騎士団の仕事よりもここでの仕事を選ぶと、はっきり宣言した。不敬と捉えられても、仕方のない発言である。
(確かに、スカウトされても辞退するとは言っていたけれど……。これは、まずいのじゃ……)
恐る恐るステファノの顔を見ると、彼はふっと笑った。
「どうやら、私の見込み違いであったようだな。パッソーニ殿は、剣の腕に自信がないのであろう。まぐれと申したのは、真のようだ」
カッと、アントニオの顔が紅潮した。ステファノが、首をかしげる。
「異論があるようだな。己の能力が本物と、証明したいか?」
アントニオの返事を待たずに、ステファノは家臣に命じた。
「私の剣を持て」
「はい!?」
家臣が、目を丸くする。
「パッソーニ殿。今この場で、私と勝負いたそう。さすれば、そなたの実力がどれほどのものか、誰の目にも明らかになることであろう」
会場は、一気に興奮の渦に巻き込まれた。エルマにルチアにスザンナ、四人の仲間らは、手を取り合って喜んでいる。大男の家族は、うちひしがれながらも、父親を労っていた。この専用席では、ドナーティが「野菜か……」と忌々しげに呟いている。他の王立騎士団のメンバーらは、この先どうなるのだろうという目つきで、ステファノとビアンカを見比べていた。
この後は、優勝者に賞金等の授与だ。ボネッリ伯爵は、早速牛を準備させようとしている。だがステファノは、なぜかそれを押し止めた。
「今の試合に、何か問題でもございましたか?」
ボネッリ伯爵が、不安げに尋ねる。いや、とステファノはかぶりを振ると、席を立った。専用スペースを出て、試合会場内へと降りて行く。家臣らは、一斉に付き従った。ビアンカも、後を追う。
アントニオは、すでに身繕いを終えていたが、ステファノを見てひざまずいた。ステファノが、穏やかに語りかける。
「見事な戦いぶりであった。素晴らしい剣技を見せてもらったことに、礼を言う」
「もったいないお言葉です。運が味方しただけにございます」
アントニオが、そつなく答える。国王同様、ステファノにも反感を抱いていた彼だったが、ひとまずは敬意を払った態度であることに、ビアンカはほっとした。
「謙遜せずともよい。そなたの試合はずっと注視してきたが、並のスキルではない」
力強く言い切った後、ステファノはアントニオをじっと見つめた。
「アントニオ・ディ・パッソーニ殿。そなたのその能力を、是非我が王立騎士団にて発揮していただきたいと思うのだが、いかがか」
ビアンカは、息を呑んだ。
(引き抜くという噂は、本当だったのね……)
それも、この場で即決するとは。期待に胸を躍らせたビアンカだったが、アントニオは即座に答えた。
「大変、ありがたいお言葉なれど……。私には、そのような名誉にあずかる資格はございません。それに、生まれ育ったこの土地を守ることが、私の使命と考えております」
「アントニオ! そのような……」
側で聞いていたボネッリ伯爵は、血相を変えた。一見言葉は丁寧だが、アントニオは王立騎士団の仕事よりもここでの仕事を選ぶと、はっきり宣言した。不敬と捉えられても、仕方のない発言である。
(確かに、スカウトされても辞退するとは言っていたけれど……。これは、まずいのじゃ……)
恐る恐るステファノの顔を見ると、彼はふっと笑った。
「どうやら、私の見込み違いであったようだな。パッソーニ殿は、剣の腕に自信がないのであろう。まぐれと申したのは、真のようだ」
カッと、アントニオの顔が紅潮した。ステファノが、首をかしげる。
「異論があるようだな。己の能力が本物と、証明したいか?」
アントニオの返事を待たずに、ステファノは家臣に命じた。
「私の剣を持て」
「はい!?」
家臣が、目を丸くする。
「パッソーニ殿。今この場で、私と勝負いたそう。さすれば、そなたの実力がどれほどのものか、誰の目にも明らかになることであろう」