アントニオの姿が見えなくなったとたん、ルチアとスザンナが駆け寄って来た。何やら、興奮している。

「アントニオさん、もしやお姉様に、装飾品をねだっていたのですか?」

 そうだと答えると、妹たちはきゃあっと甲高い声を上げた。

「彼、お姉様をお好きなのではありませんか?」
「あら、絶対そうよ。あの方の眼差しでわかるわ!」

 二人は、何やら盛り上がっている。

「ねえお姉様、想いを告げられたりはしていないのですか?」
「まあその、それらしいことは……」

 プロポーズの話はできないなあ、とビアンカは思った。すぐに両親に伝えられ、大騒動になりそうだ。受けるつもりはないというのに。

(気長に待つ、とは言ってくれたけれど。待ってもらったところで、気持ちが変わることはないのに……)

 仕事一筋でいきたい、という考えは変わっていない。どうすれば、傷つけずに納得させられるだろうか。悩ましかった。

「まあっ。モテモテですわね!」

 ビアンカの心中などつゆ知らず、ルチアとスザンナは顔を輝かせた。

「せっかく、あんな素敵な方に言い寄られているのですもの。仕事に生きると仰っていますけれど、結婚にも目を向けてみられては?」

 ルチアが、鼻息荒く言う。

「そうですわよ。人には添うてみよ、と申しますでしょう?」

 どこで覚えたのか、スザンナがませたことを言う。添った結果大失敗したのよ、とビアンカは密かに思った。

「王子殿下からは贈り物をいただくわ、騎士団長様からは愛されるわ、本当に引く手あまたですわね、ビアンカお姉様」

「別に、そんなじゃないわよ!」

「まあっ、照れなくてもよろしいのに!」

 言い合う三人の脳裏からは、テオからの求婚はあっさり抜け落ちていたのだった。