「お詫びって……。殿下に、そんなことをしていただく理由は……」

 ビアンカは戸惑った。ステファノはドナーティを降格処分にすると憤っていたが、ビアンカは説得して止めてもらった。とはいえ、宮廷出禁(ついでにテオも)という決断は変わらなかったのである。これ以上、何かしてもらういわれは無いのに。

(あ、それで確認されていたのかしら)

 ビアンカが今日実家へ帰ると聞いて、微笑んでいたステファノが蘇る。きっと、そのタイミングに合わせたのだろう。

「これは、シンハライトね。殿下は、あなたの瞳の色に合わせてくださったのだわ」

 母が、ティアラにはめ込まれた石を指す。

「しかもこれは、とても貴重な石なのよ。単なるお詫びで、こんなことをなさるかしら?」

 きゃあっと、妹たちが興奮の声を上げる。

「お姉様、もしや見初められたのではなくて?」
「どうしましょう、ビアンカお姉様が王子妃になられたりしたら!」

 妹たちの飛躍に、ビアンカは慌てた。

「そんなはずないでしょう。私みたいに地味な娘が、王子殿下のお目に留まるなんて、あり得ないわ」
「まあ、そんなことを言ってはいけません。女性は、自信を持つことから始まるのよ? ビアンカは、十分可愛らしいし、魅力的だわ」

 母が、愛おしげにビアンカの髪を撫でる。それは親の欲目だろう、とビアンカは思った。言えないが、最初の人生では、社交界で男性に見向きもされなかった。

「いやいや、あのー」

 そこへ、遠慮がちに口を挟んだのは父だった。

「もしそうなら、大変名誉なことなんだが。ただ何と言っても、釣り合いというものがだな……」
「何を仰ってるんです、あなた!」

 母は、びしりと父を怒鳴りつけた。

「謙虚に慎ましくするのは良いことですけれど、時と場合によりますわ。私が、いい例です。結婚相手の男性に妥協した結果が、現状です」

 ぐうの音も出なかったのか、父は肩を落とすと、すごすごと立ち去って行った。