翌日、ステファノの食事作りにやって来たビアンカを、ボネッリ伯爵邸の使用人たちは、にこやかに出迎えてくれた。

「王子殿下のご指名だなんて、すごいです!」
「我々にできることなら、何なりと協力しますからね」

 好意的な反応に、ビアンカはほっとした。元々、かまどを使わせてもらっているうちに親しくなった彼らではあるが、そこまで言ってもらえるとは思わなかった。本来なら彼らがステファノの食事を手配すべきところ、仕事を奪われたように思われてはいないかと、内心案じていたのだ。だが、その心配はなさそうだ。料理長などは、かえって喜んでいた。

「殿下に料理を気に入っていただけなかったらどうしようかと、一ヶ月前から悩んでいたのです。ああ、肩の荷が下りた」

 神経性胃痛に悩んでいたのだ、と彼は腹を押さえていた。晩餐会前に緊張しまくっていたボネッリ伯爵を思い出し、使用人は雇い主に似るのだろうかと思ったビアンカであった。

 ステファノは滞在中も、騎士団の調練場を借りて、自主トレーニングを行うのだという。その帰りに合わせて、ビアンカは支度を始めた。ボネッリ伯爵が、気前よく食材を買いそろえてくれたので、思う存分作りたいものを作れる。気が付けばビアンカは、鼻歌を歌いながら調理していた。

 そろそろ仕上げという段階で、執事が厨房に顔をのぞかせた。

「殿下が帰られました。湯浴みをされて、その後食事を召し上がるそうです」
「わかりました。ちょうどその頃完成予定です」
 
 計画通りだ、とビアンカは嬉しくなった。運動三十分後という最適なタイミングで、ステファノに食事を取ってもらえる。

 果たしてきっかり三十分後、ビアンカは全ての料理を作り終えることができた。給仕に運んでもらって一休みしていると、またもや執事がやって来た。何やら、慌てている。

「ビアンカ嬢。申し訳ありませんが、至急いらしていただけますか。ステファノ殿下は、お食事中、あなたにご同席いただきたいとのことです」

 しょえーっと、ビアンカは奇声を発しそうになった。作るだけではなかったのか。

(こ、心の準備が……)