その後ビアンカは、二ヶ月間の食事記録を披露して、自らの工夫を説明した。
「まず私が取り組んだのは、朝食を取っていただくことです。寝ている間に、栄養分というのは枯渇してしまいます。しかも騎士の方々は、朝に調練を行われます。空腹で体を動かしても、筋肉は作られるどころか、どんどん減っていきます」
ビアンカは、朝食欄を指し示した。無しの状態から、パンを浸した卵スープ、今やパンとオムレツというメニューにまで進化している。
「我が寮の騎士の皆さんは、調練後は職務に入られるため実現できていませんが、本当はトレーニング後も、何かお腹に入れた方がよいんですよね。三十分後を目安に、筋肉作りに効果のある食物を摂取するのが理想です」
「筋肉作りに効果のある食物とは、何だ?」
ステファノが、興味津々といった様子で尋ねる。
「基本的には、肉と卵ですね」
「さようか。では毎食、牛のパテにいたそう」
「あ、お待ちくださいませ」
ビアンカは、慌てた。
「肉の中では、チキンが特に有効なのです」
ステファノが、メニューを熟読して頷く。確かにこの寮において、チキンの登場率は高い。普通に燻製やシチューにすることもあるが、一番多く食卓に上るのはフリッターだ。若い彼らに、揚げ物はやはり人気なのである。
「なるほど。それで、海岸沿いにもかかわらず、魚をあまり食さないのか」
「魚も、筋肉作りの効果はございますよ? 骨も丈夫にしますし」
ビアンカは、魚肉パイのメニューを示した。
「ただ、赤身でないと、あまり効果はありません」
「赤身?」
「サーモンなどであろうか」
誰かが、呟く。いえ、とビアンカは否定した。
「たいていは、色が赤い魚を指しますが、必ずしもそうとは限りません。実はサーモンは、白身に分類されるのです」
ううむ、と一同は首を振った。難しい、という囁きも聞こえる。
「さらには、肉、卵、魚と共に、野菜や果物を摂取すると効果的です。果物は、予算的にまだ寮では取り入れられていませんが……」
ビアンカは、夕食のメニューを指した。キャベツ、玉ねぎ、にんじんなどが豊富に使われている。だがステファノらは、ためらう様子を見せた。それは当然だろう。野菜は身分が低い者が食べると考えられているため、王族や高位の貴族には馴染みがないのだ。
「……ハーブ以外にも、野菜を取り入れるとするか」
やや逡巡した後、ステファノはついに決意したようだった。
「他には、何か秘訣はあるか?」
「そうでございますね。やはり、バランスでしょうか。必要な栄養は、朝や晩のどちらかにまとめて摂るのではなく、均等に配分するのが望ましいです。できれば、間食などで分散するとさらによいかと……」
貴族の食事といえば、朝晩の二回だ。食事の回数が多いといえば、どうしても農民が連想されてしまう。ステファノは、戸惑ったようだったが、やがて頷いた。
「わかった。ビアンカ嬢、このメニュー表をいただきたい。私と王立騎士団の食事は、今後これを参考に……」
「お待ちくだされ」
鋭い声音でステファノを制したのは、ドナーティだった。
「先ほどから聞いていれば、野菜を取り入れるだの、食事の回数を増やすだの、非常識も甚だしい。大体、この令嬢は有識者でも何でもなかろう。たまたま結果的に、騎士たちの体格が良くなっただけのこと。彼女の言うことを鵜呑みになさるのは、いかがかと存じますが」
「まず私が取り組んだのは、朝食を取っていただくことです。寝ている間に、栄養分というのは枯渇してしまいます。しかも騎士の方々は、朝に調練を行われます。空腹で体を動かしても、筋肉は作られるどころか、どんどん減っていきます」
ビアンカは、朝食欄を指し示した。無しの状態から、パンを浸した卵スープ、今やパンとオムレツというメニューにまで進化している。
「我が寮の騎士の皆さんは、調練後は職務に入られるため実現できていませんが、本当はトレーニング後も、何かお腹に入れた方がよいんですよね。三十分後を目安に、筋肉作りに効果のある食物を摂取するのが理想です」
「筋肉作りに効果のある食物とは、何だ?」
ステファノが、興味津々といった様子で尋ねる。
「基本的には、肉と卵ですね」
「さようか。では毎食、牛のパテにいたそう」
「あ、お待ちくださいませ」
ビアンカは、慌てた。
「肉の中では、チキンが特に有効なのです」
ステファノが、メニューを熟読して頷く。確かにこの寮において、チキンの登場率は高い。普通に燻製やシチューにすることもあるが、一番多く食卓に上るのはフリッターだ。若い彼らに、揚げ物はやはり人気なのである。
「なるほど。それで、海岸沿いにもかかわらず、魚をあまり食さないのか」
「魚も、筋肉作りの効果はございますよ? 骨も丈夫にしますし」
ビアンカは、魚肉パイのメニューを示した。
「ただ、赤身でないと、あまり効果はありません」
「赤身?」
「サーモンなどであろうか」
誰かが、呟く。いえ、とビアンカは否定した。
「たいていは、色が赤い魚を指しますが、必ずしもそうとは限りません。実はサーモンは、白身に分類されるのです」
ううむ、と一同は首を振った。難しい、という囁きも聞こえる。
「さらには、肉、卵、魚と共に、野菜や果物を摂取すると効果的です。果物は、予算的にまだ寮では取り入れられていませんが……」
ビアンカは、夕食のメニューを指した。キャベツ、玉ねぎ、にんじんなどが豊富に使われている。だがステファノらは、ためらう様子を見せた。それは当然だろう。野菜は身分が低い者が食べると考えられているため、王族や高位の貴族には馴染みがないのだ。
「……ハーブ以外にも、野菜を取り入れるとするか」
やや逡巡した後、ステファノはついに決意したようだった。
「他には、何か秘訣はあるか?」
「そうでございますね。やはり、バランスでしょうか。必要な栄養は、朝や晩のどちらかにまとめて摂るのではなく、均等に配分するのが望ましいです。できれば、間食などで分散するとさらによいかと……」
貴族の食事といえば、朝晩の二回だ。食事の回数が多いといえば、どうしても農民が連想されてしまう。ステファノは、戸惑ったようだったが、やがて頷いた。
「わかった。ビアンカ嬢、このメニュー表をいただきたい。私と王立騎士団の食事は、今後これを参考に……」
「お待ちくだされ」
鋭い声音でステファノを制したのは、ドナーティだった。
「先ほどから聞いていれば、野菜を取り入れるだの、食事の回数を増やすだの、非常識も甚だしい。大体、この令嬢は有識者でも何でもなかろう。たまたま結果的に、騎士たちの体格が良くなっただけのこと。彼女の言うことを鵜呑みになさるのは、いかがかと存じますが」