ステファノはビアンカを、ボネッリ邸の応接間に連れて行った。すでに、ボネッリ伯爵はじめ大勢の男性陣が集まっている。その顔ぶれの多くには、見覚えがあった。王立騎士団のメンバーだ。この新しい人生では、初めましてになるが。

「おお、殿下! 自ら、ビアンカ嬢をお連れになるとは。仰ってくだされば、私が彼女を呼びに行きましたのに」

 ボネッリ伯爵は恐縮したが、ステファノは上機嫌だった。

「構わぬ。私がしたいからしたのだ。この令嬢は、素晴らしいアクションを見せてくれたのだぞ。きっと、日々の食事の成果であろう」

 何だか、どんどんハードルが上がっている気がする。

「さて、私にも指南いただこうか。……ああ、誰か、バルコニー下を見て参れ。チェーザリ伯爵が、木に引っかかっておるやもしれぬ」

 ステファノは、家臣に声をかけた。思いきりどうでもよさそうな様子だ。

「チェーザリ伯爵が、木に……?」

 きょとんとしつつも、一人が立ち上がり、部屋を駆け出て行く。ステファノは、用意された上座にどっかりと腰かけると、ビアンカを向かいに座らせた。ビアンカは意を決して、書類を取り出した。まず提示したのは、アントニオのビフォア・アフター絵だ。

「こちらは、我が騎士団の騎士団長にございます。こちらが二ヶ月前、こちらが現在の姿です」

 ほほう、と感心したようなどよめきが上がる。だが、一人だけ疑わしげな声を上げた者がいた。

「食生活の改善のみで、これほど変化したと?」

 あくの強そうなこの中年男は、ドナーティ侯爵といって、王立騎士団長である。

「もちろん、それだけではございません。彼自身の鍛練も……」
「眉唾ものですな」

 ドナーティは、かぶりを振った。

「大体、絵姿くらい、いくらでも誇張ができるでしょう」

 そう言われてしまえば、それまでだ。それこそ逆行転生でもしてもらわない限り、証明はできない。するとボネッリ伯爵が、恐る恐る口を挟んだ。

「この過去の絵姿は、その通りにございます。恥ずかしながら、我が領は貧しく、騎士団には十分な予算を与えておりませんでした。その中でやりくりして、騎士たちに栄養を摂らせたのは、やはりビアンカ嬢の手腕です」

「では、その手腕とやらを見せていただきましょうか」

 ドナーティが、重々しく頷く。ビアンカは、何となく不快の念が湧き上がってくるのを感じていた。