レオーネ夫妻が、こそこそと退室して行く。ステファノは、ボネッリ夫妻の方を向き直った。

「私の()家臣が、大変失礼をした。許していただきたい」

 とんでもありません、と夫妻がふるふるかぶりを振る。それから、とステファノは続けた。

()家臣たちの残した料理については、廃棄以外の処分をするようお願いしたい。貴重な食物と、それを作った者の思いを大切にする、心優しい令嬢のために」

 言いながらステファノは、ビアンカをチラと見て微笑んだ。まるで心臓でもわしづかみにされたように、体温が急上昇していくのがわかる。

(どうしよう。すっごく嬉しい……)

「かしこまりました」

 ボネッリ夫妻も、ほっとしたような笑みを浮かべて頷いた。ビアンカは、いそいそと食事の続きに取りかかった。見れば周囲の人々は、大慌てで料理をパクついている。先ほど、ビアンカを嘲笑したメンバーだ。レオーネ夫妻の二の舞になりたくないのはわかるが、がっついているのはどっちだ、と言いたくなる。すると、とある夫人が話しかけてきた。レオーネ夫人に、真っ先に追随した女性だ。

「先ほどのことだけれど、誤解しないでね? 別に、レオーネ夫人と一緒になって、あなたを笑ったわけじゃないのよ?」

 猫なで声で、ビアンカに媚びるように微笑んでいる。ちなみに、必死で完食したらしく、口元にはソースが付いているが、教えてあげた方がいいだろうか。

「レオーネ夫人は、お嬢様をステファノ殿下のお妃にと、狙ってらっしゃるのよ。あなたが今日特別に招かれたと知って、競争相手のように思ったのでしょう。だから、早めに排除しようとされたのだわ」

「ええ!? 私は、お料理絡みで招かれただけですわ。競争相手になんて、なるはずありませんのに」

 とんでもない発想にビアンカは仰天したが、周囲はそうだそうだといった様子で頷いている。

「レオーネ家は、母娘そろって必死ですもの。お食事を残したのも、すごいダイエットをされているせいよ。でもそれで、殿下のご不興を買うなんて、馬鹿ねえ」

 おほほほほと高笑いをした後、夫人は不意にその場に硬直した。目をまん丸に見開きながら、背中を押さえている。ははあ、とビアンカは思った。一気食いした上に馬鹿笑いをしたから、コルセットが外れたのだろう。

(知ーらないっと)

 助けてやるほど、お人好しではない。ビアンカは、無視して料理を食べ続けたのだった。