ステファノ来訪当日、ビアンカはエルマから借りたドレスを抱えて、久々に実家へ帰った。母と二人の妹は、待ちわびていたように出迎えてくれた。ジェンマ含め五人の女たちは、ビアンカの部屋に集った。

「お姉様、ごめんなさい! ドレス、勝手にサイズ直ししてしまって」

 ルチアは、真っ先に謝罪した。すると、母が横から口を挟んだ。

「ルチアのせいじゃないのよ。お父様が先走ったの。長女のあなたが社交界デビューしないとなって、次女にこそは良い縁談を、と張り切られたようなのよ。それで早々に、ドレスの準備を始められたの」

 なるほど、とビアンカは合点した。すると、下の妹のスザンナが、目を輝かせて尋ねてきた。

「お姉様、料理番のお仕事はいかが? 私、お姉様がいなくなられてから、代わりに料理を担当しているのですけど。是非、コツを教わりたいわ!」

 根っからの食いしん坊であるスザンナは、興味津々な様子だった。だがルチアは、そんなスザンナをびしりと叱りつけた。

「馬鹿ね。そんな色気のないことを聞いてどうするのよ。それよりも、せっかく若い男性だらけの環境にいらっしゃるんですもの。恋バナを伺いましょうよ。お姉様、何かございません?」

「あら、ルチア様。ビアンカ様なら、引く手あまたに決まってますわ」

 ジェンマが、ニコニコしながら相づちを打つ。ビアンカは、どこかホッとする思いで彼女を見やった。ジェンマは三姉妹の侍女を掛け持ちしていたのだが、ビアンカを最も慕っていたため、テオに嫁ぐ際も一緒にやって来た。だが、テオに目を付けられ、危うく手込めにされかかったのだ。ビアンカが人生をやり直せたおかげで、彼女も助かったわけである。

「そうなのですか? 是非、詳しく……」

 身を乗り出したルチアを、母は制した。

「お待ちなさい」
 
 母はすっくと立ち上がると、目にも留まらぬ素早さで、ドアの所へ向かった。パッと開けば、不意を突かれて体勢を崩したらしき父が、なだれ込んで来た。

(お父様、立ち聞きですか……?)