一同が、唖然とする。チロは、しゅんとうなだれた。

「俺が、余計な絵なんか描いたから……」
「いや、俺も不用意なことを口走ったし」

 ジョットも、気まずそうな顔をする。アントニオは、無言で食堂を出て行った。ビアンカは、慌てて追いかけた。

「アントニオさん!」

 アントニオは、ビアンカの方を振り返った。

「少し、話しておきたいことがある」

 アントニオは、ビアンカを連れて裏庭に出た。朝とは打って変わって、鶏小屋は静寂に包まれている。二人は、並んで石垣に腰かけた。

「ビアンカの努力の成果が認められたというのに、協力を拒むような態度を取って悪かった。でも、俺の事情も知って欲しい」

 はい、とビアンカは頷いた。『話したくなったら、アントニオの方から話すだろ』というジョットの台詞が蘇る。ついに、その日が来たということか。

「君は生まれていない頃だから、知るはずもないが。十九年前、コンスタンティーノ三世陛下の寵愛を受けた女性がいたんだ。本名はクラリッサだが、通称『アメジストの輝き』として知られていた」

(アメジスト……?)

 ビアンカは、思わずアントニオの瞳を見つめていた。まさか、と思う。

「俺の母親だ」

 混乱が、ビアンカの頭を襲った。アントニオは、パッソーニ伯爵家の次男ではなかったのか。その彼の母親といえば、パッソーニ伯爵夫人だ。その彼女が、国王の寵姫……?

「そう、コンスタンティーノ三世陛下は、人妻を無理やり愛人にしたんだよ」

 アントニオは、吐き捨てるように言った。