不審そうなジェンマを退室させて、ビアンカは冷静に考えた。

 ジェンマが嘘をついて、ビアンカをからかっている気配はない。第一、この肌の張りとツヤが、紛れもなくビアンカが若返ったことを証明していた。約一年半にわたる、苦労多き結婚生活のせいで、ビアンカの肌は、すっかりくすみきってしまったからだ。

(となると……、この後私を待ち受けているのは、社交界デビュー!?)

 あれが再び繰り返されるのかと思うと、ビアンカはぞっとした。勢い込んでデビューしたものの、ビアンカを娶ろうという男性は、待てど暮らせど現れなかったのである。大きな原因は、実家カブリーニ家が貧乏だったからだろう。それでも美しければまだチャンスはあったのだろうが、あいにくビアンカは、地味な顔立ちだ。先ほどジェンマは励ましてくれたが、きっと贔屓目で見ているだけに違いない。

 周囲の令嬢たちが次々と結婚相手をゲットしていく中で、ビアンカは一人取り残されていった。自尊心は粉々に砕かれ、乙女心は最大限に傷ついたものだ。

(だから、テオ様に引っかかってしまったのよね)

 ビアンカは、苦々しい思いで振り返った。そんな状況で、唯一言い寄ってきたテオになびかないわけがなかった。それに当時は、彼の物腰は優しかった。

 今から思えば、他の令嬢たちは、きっとテオの本性を見抜いていたのだろう。でもビアンカは気付けなかったし、両親も同様だった。裕福な(うわべはそう見えた)チェーザリ伯爵家との縁談に、彼らは飛び付いたのだ。ビアンカの下に、妹が二人いたことも理由だっただろう。彼らは、長女に悠長な婚活をさせ続ける余裕がなかったのである。『貧すれば鈍する』とはよく言ったものだ、とビアンカは嘆息した。

(さて、これからどうしましょう)

 再び婚活をやり直すにしても、良い結果は期待できそうになかった。それに、仮に素敵な男性と巡り会ったにせよ、中身はどうだかわかったものじゃない。テオにはあれだけ尽くしたというのに、むごい仕打ちしか受けなかった。挙げ句は、過失とはいえ殺されかけるなんて。

(よし、もう男性には期待しません)

 ビアンカは、大きく頷いた。結婚などしない。男には頼らず、自分で金を稼ぐのだ。何の幸運か、自分は人生をやり直す機会をもらった。新しい人生では、仕事に生きようではないか!