その夜夕食を終えると、ビアンカは皆に、ボネッリ伯爵の話を伝えた。一同は、口々に驚き喜んでくれた。

「私一人が招かれるのは、気が引けるのですけど。実際に頑張られたのは騎士の皆さんですし、エルマさんにもたくさん協力していただきましたのに」

 ビアンカはまだ逡巡していたのだが、それに関しては全員がかぶりを振った。

「いやいや、俺たちがここまで来れたのは、ビアンカちゃんの努力と工夫のおかげだから」
「自信を持って、行って来いよ」

 ありがとうございます、とビアンカはぺこりと頭を下げた。

「では、お言葉に甘えて……。あ、当日は朝食が済んだら、実家へ戻ります。着付けをしてもらわないといけないので」

 エルマの貸してくれたドレスを試しに着てみたところ、サイズはちょうど良さそうだった。幸いにも、身長も同じくらいなので、直す必要は全くなかったのである。

「へー、ビアンカちゃんのドレス姿か。見たかったな」

 残念、とジョットが大げさにため息をつく。

「素敵なドレスなんですよ。エルマさんに貸していただいたんです」

 全員が、えっという顔になった。

「気のせいか? 今、『エルマに貸してもらった』って聞こえたけど」
「あんたたち、あたしがドレスを持ってたらおかしいのかい」

 エルマが、じろりと皆をにらむ。

「昔、寮生にプレゼントされたっての! お世話になっている寮母に贈り物だなんて、気の利く子たちもいたもんだ。ここには、いないようだがね!」

「え、えーと。ところで、王子殿下に指南だなんて、ビアンカちゃんはどうするつもりなの」

 ジョットが、大慌てで話をそらす。それなんですよね、とビアンカは頷いた。

「こんなことになるとわかっていたら、食事の記録を付けておいたのですけど。でも、その代わりにいいものがあったんです」

 ビアンカは、帳簿を取り出した。エルマから、食費欄の管理を任されているものだ。

「ここに、日々の食品の購買記録を、細かく記載していますから。これを辿れば、その日のメニューを思い出せるはずです」

 当日までにビアンカは、この帳簿を基に、二ヶ月分のメニューを再現するつもりである。なるほど、と一同が頷く。すると、それまで黙っていたチロがこんなことを言い出した。

「なあ。二ヶ月前の俺たちの姿と、今を比較したものがあれば、なおさらわかりやすいんじゃないか」

 そう言って彼が見せたのは、二枚の絵だった。痩せ細った男と、筋肉質の男が描かれている。先ほどから、何やら黙々とペンを走らせていると思っていたが、これを描いていたのか。