解決策が浮かばないらしい父は放っておいて、ビアンカは一人よろよろと寮へ帰った。

(一体、どうすれば……)

 直しでも間に合わないのだから、新しいドレスの仕立てなど、当然無理に決まっている。かくなる上は、手段は一つしかなかった。

「お帰り」

 出迎えたエルマに、ビアンカはパンの籠を差し出した。

「エルマさん。私、今朝は食事を抜きます。いえ、一週間断食します」
「はあ!? 何なんだい、いきなり?」

 エルマが目を剥く。ビアンカは、ダイエットを決意していた。サイズを落として、コルセットで締め上げれば、ルチアサイズのドレスも何とか着られるかもしれないと考えたのだ。

「一体、ボネッリ様から何を言われたのさ? ……ああ、あんたたち、勝手に食べてな」

 通りかかったジョットに籠を押し付けると、エルマはビアンカの顔をのぞき込んだ。

「あたしでよけりゃ、聞いてやるよ?」
「それがですね……」

 ビアンカは、事情を洗いざらいぶちまけた。ステファノに指名されたと聞いて、エルマはたいそう喜んだが、着て行くドレスがないと告げると、一転呆れ顔になった。

「あんたは、シンデレラかい?」
「あ、別に虐待されてるわけじゃないんですよ。うちは、純粋に貧乏なんです」

 ふう、とエルマがため息をつく。

「それで、一週間絶食するって? 馬鹿だね」
「でも、それ以外に方法が……」

 するとエルマは、くるりと踵を返した。

「付いて来な」
「……? はい」

 よくわからないまま、ビアンカはエルマに従った。向かう先は、彼女の部屋だ。一緒に入ると、エルマはワードローブを開けた。何やら無言で、中を漁っている。やがて彼女が取り出した物を見て、ビアンカは目を見張った。それは、ドレスだったのだ。燃えるように赤い。

「これは……?」
「あたしのドレスだよ」

 ビアンカは、きょとんとした。

「すみません。今、『あたしのドレス』と聞こえた気がしたのですが」

「だから、そうだっての。二十年ほど前に、ここの寮生たちがプレゼントしてくれたんだよ。お世話になってるからって。といっても、この仕事で着る機会なんてないから、ずっとしまい込んでたんだけどね。だから、新品さ」

 ビアンカは、恐る恐るドレスを手に取った。二十年前の物だというのに、デザインは不思議と今の流行に似ている。そういえば、流行は一定周期で繰り返されるのだっけ、とビアンカは思い出した。

「あたしも、若い頃はもう少しふっくらしていたから、今のあんたにはちょうどいいんじゃないかね。貸してやるよ」

「あ……、ありがとうございます!!」
 
 ビアンカは、顔をほころばせていた。シンデレラにドレスを与えるのは、魔女のおばあさんだったな、と思い出したが、もちろん口にはせずに。