「エルマさん!」
「大丈夫か!?」

 ビアンカとアントニオは、室内へと駆け込んだ。エルマが、弱々しく呟く。

「大したことないさ。放っておいてくれ」

「そんな風には、見えません!」

「裏庭に続くドアを、修繕しようとしたのか?」

 アントニオは、散乱した工具を手に取った。

「あの程度の破損、急がないから……」
「触らないでおくれ!」

 突如、エルマが怒鳴った。険しい眼差しで、ビアンカとアントニオをにらんでいる。

「修繕は、あたしの仕事なんだ! 腰くらい、少し休めば治るから。だから……」

 ビアンカは、はたと思い当たった。

「エルマさん、もしやぎっくり腰ではありませんか? この工具箱、重そうですもの」
「ははあ、『魔女の一撃』か」

 アントニオも、合点したように頷いた。

「なら、なおさら無理はするな。ほら、ベッドへ横になって……」
「無理に動かさない方がいいかもしれません」

 ビアンカは、かぶりを振った。かつてチェーザリ邸の庭師が、ぎっくり腰を患った時のことを思い出したのだ。

「今夜は安静にして、明日お医者様に診ていただきましょう。膝は曲げられそうですか?」

 下にクッションのような物を入れるとよい、と確か聞いた。ビアンカは、エルマのベッドから枕を持って来た。それをエルマの膝の下にあてがおうとしたが、彼女はそれをはねのけた。

「余計なことはしなくていい! あたしは……、修繕を、しないと……」
「エルマ! いい加減に……」

 アントニオは、カッと気色ばんだが、ビアンカはそれを押し止めた。エルマの顔の近くに座り込んで、諭すように告げる。

「エルマさん。ぎっくり腰の原因て、ご存じですか? 過労ですよ。あなたは、頑張りすぎなんです」

 庭師を医者に診せた際、原因は、過労か肥満の二択だと聞いた。とはいえ、この寮のメンバーに限って、肥満ということはあり得ない。

「私という新人を迎えて、その指導もご負担だったことでしょう。幸い、ドアの破損は小規模ですから、急いで直す必要もありません。だから、エルマさんの今のお仕事は、ゆっくり体調を直すことです」

 エルマが、はっとしたように目を見開く。