「いえいえ! あれは、人混みがすごかったから、はぐれないようにしてもらっただけです!」
「あの売り子は、話を盛りがちなんだよ」
ビアンカとアントニオは、口々に訂正したが、三人は耳に入らない様子で呆然としている。
「アントニオが、女の子の手を握った?」
「アントニオが……、女性の手を握った!?」
「団長が、女の子と手を……?」
名作児童文学の一節みたいな台詞を、ほぼ同時に吐くと、三人は信じられないという表情でいっせいにかぶりを振った。やがて、最初に我に返ったらしきチロが、ジョットをキッとにらむ。
「ジョット! そういう大切なことは、早く言わないとダメだろうが」
そうそう、とマルチェロも頷く。そして、あっと声を上げた。
「すっかり忘れてた! 俺、明日非番なんだけど、実家へ帰って来いって言われてて。今夜のうちに帰るわ」
言いながらマルチェロは、パッと席を立った。
「俺も忘れてた。女の子と会う約束があって」
「えええ、えーと。そうそう! 俺は、友達と会うことになってたんだった」
チロ、ファビオも続いて席を立つ。ビアンカは、首をかしげた。
(皆、まだ一杯しか飲んでないじゃない……?)
「じゃ! ビアンカちゃん、明日の飯も期待してっから!」
三人はジョッキを持って、あっという間に厨房に姿を消した。つまりは洗い物をして、会計から引いてもらうのだろう。アントニオが、ジョットをにらむ。
「お前が、変なことを言うからだろうが! あいつらも、何を気を回してるんだ!」
「つれないなあ。協力してやったんだから、頑張れよ。ちなみに俺たち、全員今夜は外泊すっから」
にやりと笑うと、ジョットはアントニオの耳元で、何事か囁いた。とたんにアントニオが、バチンとジョットの頭を叩く。
「お前ら、明日の調練、覚悟しとけよ!」
「喜んで!」
ひゃっひゃっと笑いながら、ジョットが逃げて行く。わけがわからないまま、ビアンカはアントニオと二人で取り残されたのだった。
「あの売り子は、話を盛りがちなんだよ」
ビアンカとアントニオは、口々に訂正したが、三人は耳に入らない様子で呆然としている。
「アントニオが、女の子の手を握った?」
「アントニオが……、女性の手を握った!?」
「団長が、女の子と手を……?」
名作児童文学の一節みたいな台詞を、ほぼ同時に吐くと、三人は信じられないという表情でいっせいにかぶりを振った。やがて、最初に我に返ったらしきチロが、ジョットをキッとにらむ。
「ジョット! そういう大切なことは、早く言わないとダメだろうが」
そうそう、とマルチェロも頷く。そして、あっと声を上げた。
「すっかり忘れてた! 俺、明日非番なんだけど、実家へ帰って来いって言われてて。今夜のうちに帰るわ」
言いながらマルチェロは、パッと席を立った。
「俺も忘れてた。女の子と会う約束があって」
「えええ、えーと。そうそう! 俺は、友達と会うことになってたんだった」
チロ、ファビオも続いて席を立つ。ビアンカは、首をかしげた。
(皆、まだ一杯しか飲んでないじゃない……?)
「じゃ! ビアンカちゃん、明日の飯も期待してっから!」
三人はジョッキを持って、あっという間に厨房に姿を消した。つまりは洗い物をして、会計から引いてもらうのだろう。アントニオが、ジョットをにらむ。
「お前が、変なことを言うからだろうが! あいつらも、何を気を回してるんだ!」
「つれないなあ。協力してやったんだから、頑張れよ。ちなみに俺たち、全員今夜は外泊すっから」
にやりと笑うと、ジョットはアントニオの耳元で、何事か囁いた。とたんにアントニオが、バチンとジョットの頭を叩く。
「お前ら、明日の調練、覚悟しとけよ!」
「喜んで!」
ひゃっひゃっと笑いながら、ジョットが逃げて行く。わけがわからないまま、ビアンカはアントニオと二人で取り残されたのだった。